2008年07月15日

音楽業界における虚と実(芸術性と収益性)

 人間がいれば、必ず虚と実がある。表が虚で裏が実の場合もあれば、表が実で裏が虚の場合もある。虚とは、すなわち、仮想や理想世界をいい、実とは現実や収益性をさすこともある。音にまつわることでは、ビジネスでも学問でも芸術の世界でも、その分野は多岐にわたる。音楽とは、時間軸に対する音の変化であれば、風も音楽であるし、人の鼓動や人の足音も音楽になる。演奏、ボーカル、音楽制作、音響力学、音響心理学等、いろいろな分野で色々な人が仕事をしている。この世の市場経済の中で、それで生計を立て、生きることになる。

 繁華街を歩けば、ストリートシンガーが、楽器を抱えて歌を歌っている。学校に行けば、キーボードやギターを抱えて、それなりの青春を謳歌する若者がいる。フリーのスタジオにいけば、たいてい、類似したファッションを着こなした、粋なおにいちゃんが、バンドを組んで、見果てぬ夢をおっている。みんな、音楽を楽しんで、今というその時間を生きている。うまい人もいれば、下手な人もいる。私が高校生の時代から、その風景は変わらない。毎年、はしかのように、ある時期、若者は、音楽に熱中し、一回しかない青春を謳歌している。ギター一本でやっている人、バンドを組んだ仲間たちが、青春定番の夢や恋愛や人生をつれづれにつづり、それにメロディーをのせ、歌っている。ある意味、万国共通の現象でもある。実に、美しい風景である。そして、普通は、誰でもが、それで食べていけたらと夢を見る。自分の中の限りない可能性を模索して、好きな音楽でやっていけたらと思う。ある程度、やっていれば、だれでもがそこそこうまくなる。バイオリンをやっている人、ビアノをやっている人、ギターをやっている人、ドラムをやっている人、大体、私の子供時代でもしゃれた友人は小学校からやっていた。

 テレビをつければ、はやり歌が流れている。バンドを組んだ人たちも、それなりにかっこよく、映像化されている。曲が売れれば、印税がはいり、いい車にのり、豪邸にすみ、それなりの生活やそれなりのステイタスを受けている。それを若者たちは見ている。自分たちもそうなりたいと願い、必死でがんばる。差別化しなければ売れないと思い、自分たちの音楽観というものを自我の中で作ろうとする。俺たちの音楽とは、こういうものだと、若者が自我を主張するのと同じように、自分たちの音楽を作り出そうとする。何か特徴をだそうとして、あえて、外すこともある。歌い方も演奏も、だんだんと、スタンダードからはずれ、自己主張をしだす。ある意味、自然の流れなのである。だんだんと、それが、肥大化していき、趣味で楽しくやっていたことが、終いには、自分たちのすべてとなってしまう。それで、食べていけたら、こんな幸せはないのである。しかし、人生とはそんなに甘くはないのが、現実である。

 彼らが夢みたテレビや舞台で活躍するひとは、ほんの一握りの人たちである。普通、作家でも画家でも歌手でも芸人でも、売れている人を100人あげろといわれたら、窮してしまう。オリコントップ100に入る人をあげてみろといわれても、全部はいえない。芸人でもそうである。バンドやボーカルで100人の名前など、普通の人はたぶん言えない。つまり、毎年、100組ぐらいの中に、いないと、それなりの収入を取ることなどできないということになる。



 音楽業界は、年間6000億から7000億市場である。最近は、ゲームにもパチンコにもオリジナルの音源が使われる。それらも含めると1兆円以上の市場である。音楽業界も営利団体である。収益を上げないとどうにもならない。お魚をうったり、お店をやったり、機械をうったり、ソフトをうったりしている会社や商店となんらかわりはない。安く仕入れて、安く作って、高くうる。その間が利益となり、その利益の中から、報酬が支払われているのである。物をうるには、宣伝しなければならないし、ものを作らなければならないし、人も集めなければならない。つまり、どのようなものでも、先にお金がいるのである。それが投資なのである。音楽をやっていて、そこから報酬を得ようと思う人がいれば、そのバンドやボーカルがひとつの商品なのである。サラリーマンとして、新入社員をいれたとしても、企業は、その社員の給料のほかに、給料と同じかそれ以上の経費をかけている。新入社員が利益をだすには、3年ぐらいは掛るからである。まして、研究開発であれば、それが、開発し工業化し、売れて初めて、投資が回収できるのである。バンドも歌手もまったくそれと同じなのである。一人の歌手を売り出すのに、事務所は、莫大な金をかける。投資なのである。うまくいかない場合もある。医薬品開発と同じなのである。一発あたれば、事務所としてやっていけることになる。数十人のうれない人たちの固定給もそれでまかなわれている。

 まさしく、音楽業界の虚と実なのである。事務所やプロダクションは、投資した金額を早く回収しようとするのは企業として当然である。その論理は、音楽をやっている人は、なかなか分からない。なぜなら、経営者ではないからである。ひとつのギャンブルとおなじである。だから、売れやすい人、すでにある程度活躍して、固定層をもっているアマチュアや話題性があるひとを採用しようとする。音楽をやっていて、20代前半で声が掛らない女性や25歳前後で声の掛らないバンドは、ほとんど、目がないと考えたほうがいい。なぜなら、事務所やプロダクションは、金の卵を血眼に探しているからである。いい商品を探しているからである。仮に、事務所に採用になっても、報酬はやすいはずである。その人に掛ける投資金額が、他の分野に比べて桁違いに大きいからである。ラジオ一本で、100万単位、テレビでも1000万ぐらいは、その人に価値がでて、出演依頼がくるまでは、事務所やプロダクションが持ち出すからである。人をそこそこ売り出すには、数千万円以上は必要なはずである。

 音楽業界は、まさしく、ハイリスクハイリターンである。そして、完全な縦社会でもある。すこし売れたら、大体、人はエゴがでる。こんなに事務所は儲けても、自分の手取りがすくないと、文句を言う人が出るはずである。その人は、自分を売り込んでもらうために、企業や回りがどれだけの投資をしたか、まるっきり分かっていない。自分には価値がある。そうするのが当然であるかのような振る舞いをする。業界はそのわがままを絶対に許容しない。まちがいなく、それをやれば、業界全体で締め出しを行うはずである。なぜなら、人間だからである。だから、事務所やプロダクションは、音楽性よりも、まちがいなく、その人の人間性を重視するのである。人に対するいたわりや優しさとやる気、そして、音楽性とスタイルと容姿を見るはずである。もちろん、音楽性も重要なファクターである。ただし、歌のうまい人はたくさんいる。曲が作れる人もいる。しかし、人のやさしさや誠実さは、変えられない要素だからである。ある意味、売れている人は、礼儀正しいはずである。礼儀正しく、いい人だから、周りが売り出そうとするのである。



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